朝の風景彼が目を覚ますと、窓から見える東の空は白く光り始めていた。 そろそろ起きなければ。温まった布団を少し名残おしく思いつつ、 ベッドからおりて、手早く身支度を整える。 彼が準備を整え終えて再び窓の外を見ると、ちょうど山脈の合間から太陽が顔を出したところだった。直視できないほどの眩い白の光が山脈の向こうからこぼれるようにあふれ出て、黒一色だった世界に色が点り、山や街が本来の色を取り戻していく。 空は太陽の周囲から白、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青色、濃紺、そして星の散らばる黒色とコントラストを変えている。いつ見ても朝の光景は美しく、神秘的で、彼は心の底から感謝して手を合わせることができた。今日が訪れたことに感謝します、と天に向かって黙祷する。 先ほど祈りを捧げていた彼の手は、今は鍬を握りしめていた。 姿を完全に表した太陽の光を背に、彼は大地へと鍬を振り下ろす。 太陽に焼けた肌と、農具をあつかう無骨な手と、力仕事に慣れた大きな体を 持つ、たくましい聖職者の彼。そんな彼の顔には、この畑の野菜を食べるであろう孤児たちの顔を思い描いて、とても優しげな微笑みが浮かんでいた。 とれたての野菜を一口大に素早く切って、ぐつぐつと煮立った鍋へ投入する。その横でフライパンを火にかける。熱くなったフライパンの上でバターがあっという間に溶けていく。小麦粉と卵と砂糖と、たっぷりの牛乳をかき混ぜたボールの中身を、溶けたバターの上に流しこんだ。じゅうっと音を立てて生地が焼ける。 生地の甘い香りと、スープの食欲を誘う香りが建物中に充満していった。 匂いにつられたのだろうか、建物のあちこちから人の動く音が聞こえてきた。 あちこちの扉が開く音、バタバタと廊下を走る音、複数の高い笑い声。 徐々に近づいてくるそれらの音に、彼は微笑みを浮かべる。やがて、彼の立つ台所の扉が元気な挨拶と共に開けられた。 おはようございます、と言いつつ彼はニッコリと笑いかけた。 *** 彼が目を覚ますと、葉の隙間から見える空にはまだ星が輝いていた。 彼を起こしてくれた仲間が夜明けまであと一時間くらいだと教えてくれた。 眠りについたその人におやすみと言って、彼は毛布から身を起こした。 焚き火のそばに腰を下ろしてあたりを見回す。モンスターの奇襲に会うことなく、こうして無事に翌日を迎えられた事実に安堵を覚え、彼は心の底から感謝して手を合わせることができた。今日が訪れたことに感謝します、と天に向かって黙祷する。 先ほど祈りを捧げていた彼の手は、今は武器を握りしめていた。 暖かな焚き火を背に、彼は周囲の森に警戒の意識を向ける。 太陽に焼けた肌と、人々を癒す大きな手と、長い旅路に慣れた屈強な体を持つ、 たくましい冒険家の彼。そんな彼の顔には、旅の疲れをいやしている仲間たちの寝顔を見て、とても優しげな微笑みが浮かんでいた。 彼は最後の不寝番として空が十分に明るくなるのを見届けると、 荷物からお馴染みの道具と食料を取り出す。焚き火に水のはった鍋を置き、中へ調味料といっしょに乾燥した野菜や肉を砕いて入れる。その横にまな板を置いて、人数分のパンを切り分ける。スープの食欲を誘う香りが周囲に充満していった。 匂いにつられたのだろうか、あちこちでもぞりもぞりと毛布が動きだした。 ふあと背伸びをする者、ぱぱっと飛び起きる者、まだ起きたくないというように毛布の中へもぐり出す者。十人十色の反応に、彼は微笑みを浮かべる。やがて、彼の方へ仲間たちが集まってきた。 おはようございます、と言いつつ彼はニッコリと笑いかけた。 今も昔も、愛する人たちと朝を共にしている。 そんなささやかな幸福に、彼はまた神に感謝した。 うちのビショップさんは、冒険家になる前は協会付属の孤児院で聖職者やってる設定。どちらでも朝食作りはビショップさんの担当。彼の背負っている大きなリュックには彼愛用の調理器具たちが詰ってます。 二人の時間「おはよう、交代の時間だよ。」 「…ふあ、よく寝た。不寝番おつかれさま。すぐに交代するね。」 「いいよー、ゆっくりで。」 「私の次はBISさんだったかしら。」 「うーうん、次は剣士だよ。」 「え?順番変わったの?」 「んー、それがさ、始めの方の人たちの交代時間がちょっと短かったみたいで、日の出まで後3時間くらいあるんだよねえ。弓ちゃんとBISさん二人で3時間は長いから、間にもう一人入ってもらおうかなーって。不寝番1番目だった剣士さんに入ってもらうことになったの。」 「…そっかー。」 「剣士に説明おねがいね。それじゃあ、わたし寝ちゃうよ。毛布包まったらすーぐ眠っちゃうから。」 「…テイマー。」 「なあに?」 「ありがとう。」 「んん?何のことだか?おやすみー。」 「おやすみ。」 「……。」 「剣士、起きて。」 「…。」 「ねえ。」 「…。」 「狸寝入り、ばれてるから。」 「おはよう、マイハニー!」 「こーら、やめなさい。」 「あら、つれない。」 「もう。…あなたがみんなに頼んだの?」 「まさか。」 「うん、わかってたど。」 「気ぃ使われちまったな。」 「そうね。…こら、やめなさい。」 「えー、せっかくだし、いいだろ。」 「誰か起きたらどうするの。」 「みんなやけに焚火から離れたとこに寝てるから、大丈夫でしょ。」 「距離の問題?」 「そんなこと言って、久しぶりだから君が恥ずかしいだけだろ。」 「…もう。」 「…おっけー?」 ぎゅー。 「あー、いちゃいちゃすんのいつぶりかなあ。相変わらず抱きしめやすい体だなあ。」 「こんなたくましい女、抱きしめられるのあなただけよ。」 「ぽかぽかするー。そうそう、ハグってこんな気分だったんだよなあ。」 「ふふふ。」 「ぬふふふ。」 交代まで、約2時間。恋人たちの時間は続く。 二人きりの時間を、仲間が空気読んで二人のために作ってくれるとか、あると思います。 異性というもの待って、待って、行かないで! その時、彼女は内心とても焦っていた。自分の望まない方向に事態が進んでいることをひしひしと感じる。どうにかしなければ、と考えれば考えるほどに言葉は出てこない。じわりと手のひらに汗が浮かんだ。 彼女の目の前で、弓を持った女性と剣を持った男性が会話していた。 「じゃあ私は鍛冶屋に武器を直しに行ってくるから。買い出しお願いね。」 「おう、買い出しくらい二人いれば十分だからな。待ち合わせは噴水のところでいいよな?」 また後でね、と手を振って女性が離れて行ってしまう。それを彼女は絶望の色を秘めた瞳で見つめていた。 「よし、俺たちも行こうか!」 いやあーー! 真っ直ぐな青の瞳が彼女に向けられて、彼女は無音の悲鳴をあげた。 男と二人きりなんて絶対無理!女相手でもぎりぎりなのに、どうやって接したらいいのよ!パーティでも男と話すのだけはずっと避けてきたのに!今更どうしたらいいのよ! 自分でもわかるほど心臓がバクバクと早鐘のように動き出す。 顔が赤くなっているのではと心配になって、彼女は彼に背を向けた。 後頭部に感じる彼の視線からも逃れたくて、早歩きでその場を去る。 「あ、ちょっと、待って!」 むりむりむり。早く帰りたい。 後方から彼の声が聞こえたけれど、パニックを起こしている彼女は聞こえないふりをして市場へとまっすぐに向かっていった。となりに男が並ぶのだけは避けたかった。 *** 「いらっしゃい、お嬢さん!何のご用でしょう?」 「……。」 「……。」 「……。」 「…えーっと、お客さん?」 「…ポーション、50個。」 「え?」 「ポーション、50個。」 「…ああ、はい。少々お待ちを…。」 買い出しの間、霊術師の心落ち着く暇はなかった。 次はあれを買おう、あと何々がいくつ必要だ、荷物持つよ。 あれこれと彼が話しかけてくるだけでもやっかいなのに、 男の商人に何々を買ってきてくれないかと、彼女にとって残酷なお願いまで平気でしてくる。 彼に話しかけられるたびに心の中で悲鳴を上げ、男性の商人とのやり取りでは言葉がなかなか出てこない。 彼女の心中は、終始賑やかである。けれど、その賑やかさを1mmも表に出さない ものだから、傍から見れば彼女の様子は、ものすごく無愛想な風にしか見えなかった。 無表情、無言の睨み、感情の読み取れない平坦な声。美人の無愛想な態度というものは迫力があって、何人もの商人を怖がらせたのは言うまでもない。 *** 「なあ、少し休まないか?」 ぎゃー! カバンの中も両の腕にも荷物がいっぱいになりかけたころ、彼がそう提案してきた。 たくさんの荷物を持って長時間歩きまわった疲労が、体中から感じられる。 これまでに彼に話しかけられたときと同じように、彼女は無言で答えた。 誰にも使われていない5人掛けのベンチを見つけて、彼がベンチの片隅に腰を下ろした。 彼の行動を見届けてから、彼女は彼と反対側の隅に腰を下ろし、彼との間に荷物を置いて壁を築いた。相手の顔を見られない彼女は気づかなかったが、彼女のその行動を見て彼の眉間に皺が寄った。 彼との間に、すこしだけ距離を置くことができてようやく彼女は一息つけた。 ぼーっと街行く人々を眺める。街は人々のざわめきや雑音で溢れていて、ずいぶんと騒がしい。 けれど、そんな街の中で自分の周囲だけは音がなかった。 あれ?彼が何も話しかけてこない。 そう気づいて初めて彼女は彼の顔を見た。彼はベンチに寄りかかって街を眺めていた。 何とはなしに街を眺めているその顔は、表情と呼べるものが何一つ浮かんでいない。 ほかの仲間と共にい居るときはいつも彼の顔には笑顔が浮かんていたのに。 彼女は急に居心地の悪さを覚えた。 あれほど彼に話しかけられるたびに苦しくなったのに、黙られてしまっても心が苦しくなった。 今だけは何か話しかけねばならない気がする。 何を?男とは何を話すべきなの? 「勘違いかもしれないんだけどさ。」 あっ、しゃべった! 「俺は君に何か嫌われるようなことしたのか?」 え。 「もし、俺が自分で気づかない間に君を傷つけてしまっていたのなら、謝りたいんだ。 遠慮せずに教えてくれ!」 待った、待った! 「…なんで、そう思ったの?」 「話しかけても無視されるし、ずっと怒っているようだったから、てっきりそうなのかと。…違うのか?」 「違う!」 彼の顔に表情は浮かんでいたが、それは笑顔ではなく悲しげな表情だった。 自分のせいでそんな表情をされているのかと思うと、心が苦しくなる。 締め付けられた心から、彼女の言葉が飛び出していく。 「ぜんぜん、怒ってない。言葉がうまく出てこなくて、何を話したらいいのかわからなかった。だってあなたが、あなたが男だから。だから、私…」 口から出てくる言葉の、なんと拙いことか。うまく文章になっていないことと、男性に心情を吐露することに、羞恥心が湧き上がった。 眉根を寄せた彼の表情が、「何を言っているんだこいつ」と言っているような気がしてきて、彼の目を直視できなくなってきた。彼女の目線はだんだんと下がっていった。 再び、沈黙が落ちる。彼は一体何を考えているのだろう。呆れたのだろうか。不安からくる 焦燥にかられながら、ぐるぐると目の前に居る男のことを考える。そういえば、男の心情をこんなにも考えたのは初めてかもしれない。 ふと、頭上に影を感じた。地面を映していた視界に鉄のつま先が現れた。まさかと思って見上げると、やはりそこには彼がいた。 こんなに近くに男性の接近を許したことは今までになくて、体が驚きに震えてしまった。それを見て彼は確信する。 「君はもしかして、男性恐怖症なのか?」 「怖いわけじゃない!ただ、少し…?かなり、苦手なだけ。」 ベンチに座った彼女の目線に合わせるようにしゃがむと、パンっと彼が顔の前で両手を合わせた。 「すまなかった!今まで全く気づかなかった!」 合わせた両手を顔の中心に押さえつけつつ、再び彼が「すまなかった」と頭を下げた。 唐突過ぎて何の反応も返せなかった彼女はようやく慌て始めた。 「謝らないで!あなたはぜんぜん悪くないもの。」 「いーや、謝らせてくれ。今までそのせいで苦労しただろう?これからはちゃんと配慮する。 あー、買い出しもアイツに任せて、俺が鍛冶屋に行けばよかったな。ああ、くそ、すまない。」 彼はあまりこちらの話を聞いていない気がする。男とは強引な生き物だ、と彼女は思った。 「配慮なんて必要ない。」 「必要あるさ、君が苦しくなってしまうじゃないか。」 「いいのよ、もともとこの性格は直さなきゃいけないっておもって たもの。周囲に気を配われ続けるわけには、いかないじゃない。だから、その…あなたはいつもと同じでいてほしいの。」 「よし、じゃあ、俺も手伝うよ。」 なぜそうなるの。男ってほんとに変な生き物。そう思いながらも、自分を思ってくれる彼の気持ちが嬉しいとも思えた。 「男が苦手な理由、聞いてもいいか?」 理由?考えてみても、とくに、これといって嫌な出来事があったわけではなかった。じゃあ、なぜ私は男が苦手なのだろう。 男とはなんなのだろう。 「男性について、何も知らないから、かな。私の故郷にも男はいたけれど、話したことは一度もなかったし、旅に出てからも接触したことなかったから。」 ちゃんと彼の納得のいく返答になっただろうか。彼は表情を変化させることなく、ただ青い瞳を彼女に向けている。精一杯話しながら、そういえばさっきから彼の顔を直視していたことに気づいて、忘れていた羞恥心が戻ってきて目をそらした。 彼が身動きしたのを感じた。 「こっち向いて。手を出してみて。」 視線を戻してみると、彼が彼女に向かって甲を上に向けて手を差し出してきた。 彼の意図がわからなくて彼女が恐る恐る彼と同じように手を差し出してみると、彼は彼女の指先にちょこんと自分の手を触れさせた。 白い彼女の手と彼の無骨な手が並ぶ。彼の手の大きさに彼女はまず驚いた。指の関節一つ分ほど大きい。指自体も彼女のそれよりも長く、何より一本一本の太さが2倍ほど違う。 関節が盛り上がっているし、血管は骨に沿って浮き上がっている。肌のキメも荒くて、全体的に硬そうな印象を受けた。 「男と女の手ってこんなに違うのね。」 「手だけじゃないさ、見た目だけなら男と女は違いだらけだよ。けど、それだけなんだよ。」 「…どういうこと?」 「見た目は違うってだけで、男も女も中身は同じってこと。俺は楽しかったら笑うし、嫌なことがあったら悲しむ。ときには怒ることもある。 けど、それって君も同じだろう?女仲間たちといっしょにいる時みたいに、普通に話してくれたらそれでいいんだ。 男だ女だって難しく考えないで。男って差別した目で俺を見るんじゃなくて、俺個人として俺を見てもらえたら嬉しいな。」 個人としての彼を見る、か。ベンチに座ってからの彼との会話、買い出し中明るくはなしかけてきた彼の様子、ふだん遠目に見たときの彼への印象、仲間から聞いた彼への評価、持ちえるだけの彼に関する情報を引っ張り出してみる。彼は誠実で優しい人だ。みんなにリーダーを任される、信頼できる人だ。こんな自分にまっすぐと向き合ってくれる、いい人だ。 少し強引なところはあるけれど、苦手意識を持ってしまう理由なんてどこにも見当たらない。 彼女は指先に触れていた彼の手の甲に、自分の手のひらを重ねてみた。やはり見た目通りごつごつとしていた、けれど、それがなんだというんだろう。 彼の顔を正面から見据えてみた。男と目があったのに、まったく心の中は凪いでいた。 数分前までの自分が馬鹿にしか思えなくて、急に笑いが込み上げてきた。彼女はうっすらと微笑みを浮かべた。 「あなたのこと、苦手じゃなくなっちゃったみたい。」 中学生か!(ツッコミ) お父さんの手(シーフ視点) 一回目。 「……。」 「……。」 「…おい。」 「はい、なんでしょう?」 「なんでしょう、じゃない。…これはなんだ。」 「これとは?」 「…あんたが今やってる事だよ。」 なでなで。大きな手のひらが何度も俺の髪を行き来する。筋肉質な腕の重さか、それともわずかに力が込められているのか、上から押さえつけられているような感覚がする。 肉体において重要な場所であるせいか、頭を他人に触られているのは、なんだか落ち着かない。もやもやとした、なんとも言いようのない感情がして気分が悪い。 未だに頭上を行き来している手を摘むように持ち上げてほうった。 「おや、すみません。つい。」 何が「つい」なのか。この行為に何の意味があるのか。何もわからなかったが、それ以降その時はしてこないで普通の会話に戻ったので、気にせず流した。 *** (BIS視点) 二回目。 彼がGVで活躍したという話を人づてに聞いただけで、私は嬉しくなった。 だから、彼に会って直接彼の口からその話を聞いたとき、舞い上がった私は、無意識に彼の頭に手を伸ばしていた。 「よくやりましたね。すごいです。」 なでなで。すると彼の顔は、先日頭を撫でた時と同じように戸惑いの色を浮かべた。 子供のような扱いを受けて不快に思った、という風ではない。彼のこの戸惑い方はなんだろうか。撫でながら彼の心情を探っていたが、彼の手が私の手を排除しようと持ち上がったので、すぐに頭の上から撤退した。 *** (シーフ視点) 三回目。 狩りでミスをした。そのミスのせいでパーティを危険な目にあわせてしまった。 仲間たちは口々に気にするなと言ってくれたが、気を使わせてしまったと思うと、また自分に腹が立つ。なぜそうなってしまったのか、正しい判断は何だったか。何度も当時の状況をリフレインさせて、当時の自分を非難する。 名前を呼ばれて振り返ると、あいつが立っていた。気にするなと言った時の仲間たちと同じ、眉根をよせてこちらを案じるような表情をしている。何も言わずに、すっとその手が持ち上がった。 「また意味のわからんソレか。」 その手が届く前に、ぺしりと手の甲で払い除けた。苛立っていたせいで、強めに力が入ってしまった。痛みに一瞬あいつの顔が引きつった。しまった。 「…わるい。」 気まづくなって視線を離す。すると、あいつの手が振り落とされるようにぽんと頭に乗せられて、頭が振れた。その手が今までにない強い力でゴシゴシと髪を掻き乱してきた。また払い除けてしまうのは気が引けて、されるがままにしていた。ちらりとあいつの顔を伺ってみると、悲しげな表情をしていた。 言葉こそ無かったのに、あいつの声が伝わってくる。なぜだか急に泣きたくなった。 この行為の意味が、なんとなくわかったような気がした。 *** (BIS視点) 四回目以降。 「GVお疲れ様です。前線で活躍したって聞きましたよ。戦略的にうまく立ち回っただとか。」 なでなで。彼の髪は、猫を撫でた時と同じ感触がする。 この頭を三回目になでた時から、彼は私が頭に触れてもされるがままになっていた。 撫でられながら彼はこちらの様子を伺っている。 それまでの彼の言動から、どうやら彼は「頭を撫でる」という行為が何を意味するのか、どう受け止めたらいいのかを知らないようだ。彼の家庭事情だとか、立ち入ったことは聞いたことはないが、概ね予想はついていた。彼がこの行為の意味を自分で気づいて、あわよくば受け入れてもらえたら嬉しいなと思う。私から教えてしまえば、彼を子供扱いしていることがバレて怒られてしまうので、絶対に教えない。(数百年人間として地上で生きてきた私からすれば、普通の人間なんてみな子供同然だというのに。)これからも私は撫でたいから撫でるだけです。 *** (シーフ視点) 四回目以降。 何度目にかやられたとき、頭に触れてくるあいつの手のひらは暖かいことに気づいた。 その暖かさを通して褒められると、喜びが増すきがする。その暖かさを通して慰められると、泣きたくなってくる。なぜそうなるのかはよくわからない。もしかすると、頭に触れてくるときのあいつは、なぜかとても頼れる存在に見えてくるから、それが原因なのかもしれない。 始めの頃に感じたモヤモヤは何度頭に触れられても消えることはない。ただ、正体がつかめずに不快であったそれが、今では心地よいものだと思えるようにはなった。 モヤモヤの正体が、嬉しさだと気づくのは、もう少し先。 BISの手装備:お父さんの手。シーフは孤児で、一般的な父親の愛情を知らない。父と養子の息子のような、擬似親子関係のBISとシーフが好き。 2012/12/03 風景、会話、心情、一人称視点。 |